雨雲、のち晴れ空

創作と日常と

ぽとり


     蝉が泣いて、夏が落ちる。


 電車を降りて改札を出て、いつもの道を歩く。綺麗に敷き詰められた白いタイル。外観のためだけに植えられたであろう人工的な木々の並び。建設中のタワーマンション。数えきれないほどの街灯に照らされたこの街は確かに明るい。明るさを求めて変わっていく街で、何一つ変わらない私は生きている。

 今日も、歩きながらイヤホンから流れる音楽を耳に通した。流行を知るために適当に作ったプレイリスト。曲調とリズムをバックミュージックに考え事をする。ぼんやりと。記憶がないので果たして本当に考え事をしていたのかすらわからないけれど。

 ふと、視線を下に落とした。日常に非日常が転がっていた。それを無意識に避けてしまったときの私の感情は、きっと嫌悪だっただろう。ぽとりと、まさに木からそのまま落ちたと思えるようなその恰好は、明らかに目を背けたいものだったから。身を削って鳴いて、瞬く間に生を終える。夏が落ちていく。何度繰り返してもこの夏の終わりの感じ方には慣れない。

 

 今日は涼しかったね